お米は、冷めたときの味で選びました
新米の便りが聞こえてくる季節になりました。炊きたてのつやつやのご飯は、それだけでごちそうだと思います。
ただ、弁当屋は少し違う見方でお米を見ています。お弁当のご飯は、召し上がる時には冷めているからです。
うちのお米は、冷めたときの味を一番にして選びました。そう決めるまでに、少し話があります。
「記憶に残るお米」に、やられました
以前、長くお付き合いしていたお米の品質を保つのが難しい時期がありました。米不足の頃です。炊くとべちゃっとする。食感が良くない。お米屋さんも配合を変えるなど努力してくださったのですが、限界がありました。おかずをどれだけ頑張っても、ご飯で決まってしまう。これは相当こたえました。
そんなとき、知人の紹介で、五ツ星お米マイスターの方に会いました。
正直に言うと、私の最初の相談は「値段を上げずに、品質を良くできませんか」でした。いま思えば、虫のいい話です。
その席で出てきたのが、「記憶に残るお米」という言葉でした。
これに、やられました。長く弁当屋をやってきて、お米をそんなふうに考えたことが、一度もなかったんです。値段の相談をしに行ったはずなのに、帰り道はその言葉ばかり考えていました。
迷って、決めました
それで、うちのお弁当に合うお米をお願いしました。冷めてもおいしい。甘みがある。つやがある。粒が立っている。べちゃべちゃしない。
複数のパターンをブレンドしてもらって、私が実際に食べ比べました。理屈抜きで、違いました。
ただ、仕入れの値段は、正直、はっきり上がりました。お米はお弁当の原価の中でも大きいところです。迷いました。
決め手は単純です。毎日食べていただくご飯を、ケチりたくなかった。それだけです。
「え、何かあったの?」
お米を切り替えるとき、お客様には「お米が変わります!」という案内を配りました。日本一おいしいお米を目指します、と書いた記憶があります。
1か月ほど経った頃、配達先で「お米、どうですか」と聞いてみました。返ってきたのは「え、何かあったの?」でした。あれだけ迷って変えたのに、気づかれていない。そういうものか、と思いました。
お米を変えたんですよ、ぜひ味わってみてください。そう伝えて帰った、その翌日です。今度はお客様のほうから声をかけていただきました。
「お米、全然違う。ほんとにおいしい」。
変えてよかったと、このとき心から思いました。
私自身にも、忘れられない実感があります。ある日、カレーの持ち帰りでご飯が先になくなって、家で保温していた、うちと同じお米を足して食べたんです。全然おいしい。カレーそのものまでおいしくなった気がして、お米でここまで変わるのかと、あらためて実感しました。
毎日食べるものは、意識しないと違いに気づきません。それでも、気づかれないところの味を保つのが、毎日のお弁当なのだと思っています。食べて違いが出るところには、お金をかける。うちなりの線の引き方です。
今日のお弁当のご飯も、そうやって選んだお米です。

